うつ病は人類絶滅を救う!?

「うつ病」が、実は重要な役割を果たしているのではないかと指摘する新たな学説が発表され、注目を集めています。depression-a-z-comp
現在、日本ではうつ病患者が急増し、大きな社会問題となっています。しかし最近になって、うつ病は人類が生き残るための手段だったのだという、常識を根底から覆す学説が発表されたのです。
アリゾナ大学のチャールズ・レイソン博士らのグループは、「うつ病は、伝染病によって人類が絶滅するのを防ぐ手段である」という学説を発表しました。うつ病になると、やる気を失い、他人との交流も持たなくなります。これは、患者やその家族にとっても実に辛いことですが、文明を持つまでの人類にとっては、むしろ好ましいことだったと言えるのです。
現在では抗生物質などで対抗できるようになりましたが、長い間、人類が生存していく上で、伝染病は最も脅威となるものでした。伝染病が流行すると、場合によっては、一族がことごとく滅亡してしまいます。
しかし、一族の中で一定の割合でうつ病の患者が生まれるようにしておくと、伝染病が流行している時期に他人と接触を持たないため、感染を避けることができます。また、うつ病になると食欲が低下しますが、伝染病の多くは食事を通して病原体が体内に侵入するため、これも感染の予防に効果があります。さらに、うつ病になると発熱することもありますが、体温が上昇するとほとんどの病原体は増殖が困難になるため、やはり伝染病の対策に有効なのです。
このように、うつ病に伴う人体の変化は、伝染病の予防のためだと考えるとすべて合理的に説明できるというのが、レイソン博士の指摘です。

一方、米国・エモリー大学のアンドリュー・ミラー教授らは、うつ病に伴う免疫力の変化に着目し、「うつ病は敵と戦うことによって人類が絶滅するのを防ぐ手段」であるという学説を発表しました。
うつ病になると、体内では炎症反応が起きやすくなることが以前から知られていました。ただし、その理由は分からなかったのですが、ミラー教授らは、敵との戦いと関連付けて、この現象を説明したのです。
体内で炎症が起きやすいと、仮に病原体が体内に侵入しても、炎症反応によってこれを撃退できます。つまり、炎症が起きやすいというのは免疫力が高まることを意味するのです。このことに注目したミラー教授らは、うつ病の役割を次のように考えました。
命を落としかねない危険な動物や敵と戦う前には、精神的に大きなストレスを生じます。このとき、ストレスによって一部の人がうつ病を発症すると、勇敢に戦おうという意欲が起きないため、少なくともその人だけは生き延びるのに役立ちます。また、うつ病に伴って免疫力が高まると、仮にけがをして傷口から病原菌が体内に侵入してしまっても、命を落とさずに済みます。
さらに、うつ病になると睡眠障害が起こるので睡眠時間は短くなりますが、これによって覚醒状態が長く続くというのは敵から逃げるのに有利なことです。つまり、一見何の脈略もないように見えるうつ病の様々な症状は、いずれも敵との戦いで生き残るのに役立つ点で一致しているのです。
レイソン博士の学説は伝染病の流行、ミラー教授の学説は敵との戦いと、想定している状況は異なりますが、うつ病が危機的な状況下で生き残るための手段だという点では共通しています。さらに、どちらの状況も人体に求められる機能の具体的な変化についてはかなり類似しています。このため、2つの学説はお互いに矛盾のない理論だと言えます。
うつ病は、一見、関連性が見当たらない多様な症状を併せ持つということが、医学上の大きな特徴です。それらを人類の生き残り戦略として結びつけた点で、従来のうつ病の印象を根底から覆す学説として、どちらも高く評価されているのです。

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